声にできない“アイシテル”
「ああ。
 彼女は子供の頃に声帯を取り除く手術をしたんですよ」


 お兄ちゃんの説明に、アキ君は一瞬息を飲む。

「そうでしたか・・・。
 これまでにいろいろとご苦労されてきたんでしょうね」

 アキ君は申し訳なさそうな顔で私を見る。


 私はちょっとだけ微笑んで、首を横に振った。

“筆談で不便かもしれませんが”


「とんでもない。
 こちらの無理な頼みを聞いていただけで、十分です」

 改めて深く頭を下げてから私に視線を向けた彼の瞳は、私の知らない人のものだった。


―――本当に私のこと、覚えてないんだなぁ。


 胸の奥に感じた寂しさを、笑顔でごまかす。


“ところで。
 私は何をすればいいんですか?”

「それが・・・。
 具体的にどうしたらいいのか、分からないんです。
 ただ、あなたにもう一度会いたいと」

 頭をかきながら、困ったように笑うアキ君。

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