声にできない“アイシテル”
―――さてと。


 アキ君に向き直ると、彼は閉じた扉を見ていた。

 しばらく待ってみたけれど、アキ君は扉から目を離さない。


 私はアキ君の目の前に手をひらひらとかざして、気を引く。

「・・・あっ。
 すいません、ぼーっとしてしまって」

“いえ。
 あの、お兄ちゃんがどうかしましたか?”


 アキ君はパチパチッと瞬きをして、びっくりしている。

「お兄さんなんですか?
 あまり似てないようですが」


 私はクスクスと笑いながら、ペンを動かす。

“幼馴染なんです。
 だから、血はつながってないですよ。
 小さい頃からずっと面倒を見てくれていたので、いつの間にかお兄ちゃんと。
 それがいまだに抜けないんです”

「なるほど・・・」
 
 アキ君がうなずく。


「山下さんは見ず知らずの僕にも、とても優しくしてくれます。
 きっと昔から、やさしくて温かい人なんでしょうね。
 ・・・自分とは違う」


 そう言ったアキ君の顔が見る見る曇ってゆく。



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