声にできない“アイシテル”
“どうしました?”

「・・・子供の頃の記憶がかすかにあるんです。
 中学生くらいのことだと思います」


 アキ君は視線を窓の外へと移した。

「理由は分かりませんが、誰のことも信用していなかったようです。
 そのせいで、たくさんの人を傷つけたことでしょうね」


 両親を自殺で亡くして。

 人を、言葉を、信じることが出来なくなったと以前彼から聞いた。


―――どうせなら、幸せだった頃のことを覚えていたらよかったのに。


 人生って皮肉だと思った。

 唯一覚えているのが、一番つらい時期の記憶だなんて。


 だけど、彼に対して私は何も言えない。

 ただ黙って彼の話に耳を傾けている。



「今現在の自分がどういう人間なのか、まったく分かりません。
 あの頃と変わらず人を傷つけて生きているのか。
 こんな自分は人を愛することが出来るのか。
 こんな自分を愛してくれる人がいるのか・・・」

 私と目を合わせないまま、ため息をつくアキ君。




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