声にできない“アイシテル”
 2人の会話が終ったのにも気付かず、俺はずっと彼女を見ていた。


 すると視線を感じたのか、彼女がこっちに顔を向ける。

 あっと思った時には俺とばっちり目が合ってしまった。


―――今から見ていなかった振りをするのも変だしなぁ。


 俺は、目をそらすタイミングを外してしまう。



 彼女もそらすことなく、俺を見ている。

 どうして自分が見られているのか分からないと言う不思議そうな顔で。



 どれだけの間、視線を合わせていたのだろう。


 時間にすればほんの2、3秒だとは思うけど。

 すごく長く感じた。


 まばたきをした彼女が俺に向かって小さく頭を下げた。

 俺も応えるように軽く下げる。


 顔を上げた彼女は小山に向き直り、にこやかな笑顔で手を振って出ていった。


―――小山にはあんなに親しげなのに、俺には他人行儀だ。


 彼女と小山は親戚だし、俺と彼女は大して面識もない。

 そんなの当たり前のことなのに。


 なんだか体の芯の奥の奥に隙間風が吹き込んだように、物寂しい感じがした。
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