声にできない“アイシテル”
 私は腕を伸ばし、向かいに座っている彼の肩にそっと触れた。

 アキ君はゆっくりと視線を戻し、私を見る。


 しっかりと目が合ったのを確認し、私はニコッと微笑みかけた。

“大丈夫です。
 人は変われるんですよ
 あなたはきっと、人を愛し、人から愛される男性に成長したはずです”


 私と会うまでのアキ君は、彼が話したとおりの人生を歩んでいたのだろう。


 だけど、私といるときのアキ君はそうじゃなかった。


 私を精一杯愛してくれた。

 私も彼を精一杯愛した。


 とても素敵で、魅力的で、愛しい男性だった。



 私はもう一度書く。

 今度は少し大きめの字で、力強く。


“大丈夫です”

 メモ用紙を彼に差し出した。



 受け取ったアキ君の表情が和らぐ。

「あなたにそう言われると、本当にそう思えます。
 不思議な方だ」


 アキ君は今日初めて、穏やかに微笑んだ。
 
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