声にできない“アイシテル”
 彼が深い意味もなくそう言ったのであれば、何も問題ない。

 だけど、もし、何か理由があって尋ねてきたのなら・・・。


 自分が彼にとって特別な存在であったと、知られたら困る。


 私は必死で冷静さを取り戻そうとする。

 ゆっくりと息を吸い、メモにペンを走らせた。

“どうして、そう思ったのですか?”


 私がメモを差し出すと、アキ君は私の口元をじっと見つめた。

「あなたが初めてこの病室に入った時、僕のことを“アキ君”と呼びました。
 それは僕がアキラだからですよね。
 面識がなければ、僕の名前は分からないと思うのですが?」


―――あっ・・・。

 私は自分の唇を手で押さえた。


 彼の姿を見て、ついそう呼んだ。

 呼んだ、と言うよりは無意識に口が動いてしまった。


―――どうしよう。


 私は動揺を悟られないように、何気ない振りを装って視線を伏せる。

―――大丈夫、落ち着いて。
   完全に私の正体がバレたわけじゃないんだから。
 

 自分に何度も言い聞かせ、再びペンを動かした。

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