声にできない“アイシテル”
“はい。
 桜井さんの事、知ってますよ“

「本当ですか?!」

 アキ君は驚きと喜びが混じった顔で、グッと身を乗り出してくる。


 その彼に、書き足したメモを差し出した。

“だって、あなたは有名な人ですから”



「え?」

 嬉しそうだったアキ君の顔がメモを見たとたんに曇る。


“桜井さんは日本の大きなホテルグループの跡取りなんです。 
 これまでに何度もテレビや雑誌の取材を受けられてますよ。
 だから、そういった意味で私は桜井さんの事を知っています”


「そういうことですか・・・」

 ふっと短く息を吐くアキ君。

 だけど、すぐに顔を上げる。


「でも、“アキ君”と言うのは、かなり親しげな呼び方に思えますが?
 仲の良い友人同士や、恋人同士のようです」


“それは・・・”

 私は動揺で視線が泳いでしまわないように、ペン先の一点を見つめる。


―――細かいところに気がつくんだよね、アキ君て。
   昔から変わってないなぁ。


 なんて、今は懐かしんでいる場合じゃない。

 必死で言い訳を考える。
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