声にできない“アイシテル”
“実はですね、あなたは芸能人並みに人気があって。
 若い女性たちはみんな『アキ君』と呼んでますよ。
 日本ではちょっとしたアイドルのような存在なんです”


 そんな話は聞いたことがない。


 でも、イギリスにいる間ならその話が本当かどうか、アキ君は確かめようもないしね。

 バレるはずないと、私はそれらしい言い訳を作り上げる。


 仕上げにニコッと笑いかけると、アキ君は私の話を信用したらしい。

「実感はありませんが。
 あなたがおっしゃるのですから、そうなんでしょうね」
 
 困ったように照れ笑いする彼。




―――とりあえず、これで大丈夫かな?

 何とか切り抜けられて、心の中でほっと一息。


 ところが、アキ君はまた尋ねてくる。

「それにしても、どうして僕はあなたの唇の動きを読み取ることが出来たのでしょうか?
 やはり、以前に会ったことがあるのではないですか?」


 一難去って、また一難。

 アキ君はまたしてもこちらが焦るような質問をしてくる。



―――困ったなぁ。


 ここで適当にはぐらかしたら、逆に怪しまれそう。



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