声にできない“アイシテル”
 話し相手になると言っても、私はアキ君を知らないことになっているから。

 内容は他愛もない世間話。


 外国人だらけの病院にいるせいか、アキ君はここぞとばかりに日本人の私に話しかけてくる。

 おかげで返事を書くのも結構大変。

 そっと手首をさする。


「あ・・・。
 もしかして、手が痛くなってしまいましたか?」


 見つからないようにしたんだけど、彼には気付かれてしまった。


“少しだけです。
 でも、たいしたことないので気にしないでください”


 軽く笑って差し出したメモをアキ君は見つめながら言った。

「僕は読唇術が出来ると、大野さんは言いましたよね。
 でしたら、筆談はやめませんか」


 確かに、付き合っていた頃のアキ君は私の口の動きを完璧に理解していた。


 だけど、それは記憶を失う前のこと。

 簡単な単語は読み取れても、今では会話となると難しいと思う。 

 


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