声にできない“アイシテル”
 私は首を横に振る。

 なのに、アキ君は私からメモとペンを取り上げてしまった。

「とにかく試してみましょう。
 無理なようでしたら、また筆談でお願いします」


 道具のない私は、彼に従わざるを得ない。

―――まぁ、とりあえずやってみるかな。


 私は唇を動かした。

“桜井さんて、おとなしそうに見えて結構強引なところがあるんですね。
 ちょっと意外でした”

 彼が読み取れるように、丁寧に話す。


 アキ君はそれを見て、困ったように苦笑い。


―――ゆっくりしゃべってみたんだけどな。
   やっぱり、無理だよね。

 メモとペンを返してもらおうと、私はアキ君に手を伸ばす。

 すると、その手をやんわりと押し返された。

「はははっ、意外でしたか?
 強引な男ですいません」

 驚いたことに、彼には伝わっていた。

「もう少し早くても読み取れそうです。
 ・・・これで、筆談の必要はなくなりましたよね?」

 にっこりと微笑まれると、言い返せなかった。


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