声にできない“アイシテル”

サヨナラ、アキ君 SIDE:チカ

 今日、アキ君が帰国する。

 私とお兄ちゃんは空港まで見送りにきていた。



 結局、アキ君は自分が何をしにイギリスに来たのか、思い出せなかった。

「そんなにがっかりしないでください。 
 手術を受ければ、記憶は戻るんですから。
 また来ればいいんですよ」

 お兄ちゃんがアキ君の肩をたたいて励ます。


「そうですよね。
 気を落とさないようにします」

 苦笑交じりに返事をしたアキ君が、お兄ちゃんから私に視線を移す。

「大野さん、いろいろとありがとうございました。
 とても楽しい時間が過ごせました」

 優しく目を細める彼。

 私も微笑む。

“そう言ってもらえて嬉しいです。
 たくさんお話できて、私も楽しかったですよ”


 数分後に迫った彼との別れ。

 それでも、私の心は落ち着いていた。

< 404 / 558 >

この作品をシェア

pagetop