声にできない“アイシテル”
「もう、行きますね」

 その場を離れようとしたアキ君に、私は握った手を伸ばす。

「なんでしょうか?」


 首をかしげる彼の前で、手を開いた。

 そこにあるのは、彼からもらったあの指輪。

 彼との思い出と、彼の愛情がつまった指輪。
 

 だけど。

 アキ君と完全に別れることを決めた私には、もう必要ないから。


“この指輪を持っていると、すごくいいことがありますよ。
 おかげで、私は人生で最高の出会いをしました。
 お守りがわりに差し上げます”

 そう言って、アキ君に手の平に載せた。


「そんなに大切なものを、僕がもらっていいんですか?」


“ええ、いいんです”


 記憶が戻ったアキ君はこの指輪を見て、私との別れを理解するだろう。

 私がアキ君のもとに戻るつもりがないことを・・・。



―――これで、本当にお別れだ。


 私はそっと微笑みを浮かべ、アキ君から1歩離れた。


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