声にできない“アイシテル”
「どうしたの?」

 動かない俺を心配して、叔母さんが声をかけてくる。


「あ、その。
 家があまりに大きくて、驚いてました」

「ふふっ、ここは間違いなく私たち家族の家よ。
 大丈夫。
 記憶が戻れば、戸惑うこともなくなるわ」


―――『記憶が戻れば』か・・・。


 この人は、俺の記憶がなくなる前のことを知っているのだろうか?
 


 俺はずっと気になっていたことを尋ねる。

「あの・・・。
 どうして僕はイギリスに行ったのでしょうか?
 理由をご存じないですか?」


 すると女性はほんの一瞬眉をしかめた。

 そして、少しぎこちない笑顔を作る。

「さぁ。
 私には見当がつかないわ。
 ごめんなさいね」


「いえ」

 この女性は何かを知っている。

 だけど俺には言いたくない。
 

 そんな態度に見えた。


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