声にできない“アイシテル”
「晃君。
 なんだか楽しそうね」

 すぐ横に立つ叔母さんが言う。

「そんな顔、してますか?」

「してるわよ。
 実はね、記憶喪失だと聞かされて、正直今もパニックなんだけど。
 あなたの明るい表情が見られて、安心したわ。
 よほど病院のスタッフによくしてもらえたのね」

「はい。
 本当にお世話になりました」


 大野さんは病院とは関係ない人だけど。

 あえて説明する必要もないと思って、叔母さんには素直にうなずいておいた。







 
 自分の家だというのに、リビングに通された俺は落ち着かない様子でソファーに座っている。

 叔母さんが苦笑しながらコーヒーを出してくれた。

「もっとくつろいでいいのよ」

「あ、はい。
 すいません」


 硬い返事をすると、また叔母さんが笑った。

「ふふっ。
 順二さんが帰ってきたら食事にしましょうね。
 もうそろそろだと思うわ」


 言ってるそばから、玄関で『ただいま』と言う声がした。
< 420 / 558 >

この作品をシェア

pagetop