声にできない“アイシテル”
 その時、右手がふわっと温かくなる。

 ゆっくりと視線を移動させると、女の子が俺の手を握っていた。


 女の子といっても、小さな子供ではない。

 年齢は俺と大きく変わらないだろうが、小柄であどけない様子が幼さを感じさせる。


 色が白く、黒髪の似合うその子が俺に微笑みかけた。


―――あ・・・。


 これまで心に張り付いていた氷が解けてゆくのが分かった。


 絶望が消え、穏やかな安らぎが俺を満たす。


『救われた』 

 そう思った。




 改めてその子を見る。

 見上げてくるパッチリとした瞳には見覚えがあった。


―――どこで会ったんだろう。


 この子はきっと俺にとって大切な存在。


 それは直感的に分かったのに。

 彼女に関する事柄がまったく分からない。

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