声にできない“アイシテル”
 名前はなんと言うのか。

 自分とはどういう関係にあるのか。


 知らないのではなく、思い出せない。

 俺は確かにこの子を知っているのに・・・。



「あ、あの!」


 声をかけると、女の子は首をかしげてきょとんとする。


―――このしぐさ、絶対に覚えがある。


 思い出そうとするほど、頭の中に白い霧がかかってしまう。

「君は誰?
 名前は?」


 俺の問いかけに、その子は寂しそうに微笑む。

 そして、するりと手を解いた。



 とたんになくなる温もり。


「あっ、待って!!」

 俺はその子に手を伸ばす。


 だけど、輪郭がぼやけ始めたその子に触れることは出来なかった。


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