声にできない“アイシテル”
 ようやく会えると思っていたのに。

 指の間から流れる水のように、あっという間にすり抜けていってしまったチカ。


―――くそっ。

 歯軋りの音が耳に響く。


「桜井さん?」

 おずおずと声をかけてくる上田さん。

 その声にハッと我に返る。

「すいません。
 2年ぶりに彼女に会えると思って、喜んで来たんです。
 ここにいなかったことがくやしくて、つい」

 苦笑いをしながら少しぬるくなったコーヒーを飲む。


 そっとカップを戻し、正面に座る上田さんに告げる。

「これからアメリカに向います」


「・・・は?
 今からですか?」

 あからさまに目を大きく開き、上田さんはあっけにとられる。




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