声にできない“アイシテル”
―――きちんと説明しないと、俺は悪者だなぁ。 

 苦笑いを押し殺し、俺は話を始めた。


「チカと俺は恋人同士なんです。
 将来、結婚するつもりでいました。
 でも、俺の家の都合で引き離されてしまたんです。
 俺の知らないうちに」

「家の都合?」

「はい。
 俺の養父母は大きな会社を経営してまして。
 その・・・、チカは俺にはふさわしくないと、そんなようなことを彼女に言ったんです。
 恐らく、話ができない女性では社長婦人は務まらないといったところでしょうね」


 チカは何の反論も出来ずにいたことだろう。

 その時の彼女を思うと、自分の身が切られる思いだ。

 そんなつらい思いをさせてしまったことを、本当にすまないと思う。


「チカは自分が身を引くことで、会社やそこで働く従業員を守ろうとしたんです。
 それが、2年前のことです」


 上田さんが小さく息を飲んだ。

「チカちゃんがイギリスに来たのは、それが理由だったのね」

 何か思い当たる節があるのか、何度もうなずいている。



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