声にできない“アイシテル”
「座って」


 私はお兄ちゃんの正面のイスに腰を下ろす。

「なんだか“信じられない”って顔をしてるね」

 
 私は正直にうなずく。


 するとお兄ちゃんは苦笑い。

「もうずっと、チカちゃんのことが好きだったんだよ」


“そんなの一度も・・・、私に言ったこと・・・なかったじゃない”


 ぎこちない動きの手話。


 お兄ちゃんからそんな話、聞いた事もなかったし。

 私のことを好きだっていう明らかな素振りも見せなかった。


 戸惑いで、いつものように滑らかに手が動いてくれない。


 それでもお兄ちゃんは、言葉を読み取ってくれる。

 それだけ、私のことをよく見てくれているという証拠。


「タイミングが合わなかったんだよ。
 俺がチカちゃんを好きだと思った時、君はまだ小学校4年生だったからね」

“え?
 そんな前から?!”


 そんな幼い自分を好きになったと聞いて、ひどく驚いてしまった。

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