声にできない“アイシテル”
 するとお兄ちゃんは、困ったように笑う。

「あの時のチカちゃんにこんな話をしても、きっと気持ち悪がるか、冗談だと思うだろ?」

 
 気持ち悪いとは思わないかもしれないけど。

 多分信じなかっただろう。


 私にとって、7歳も年上のお兄ちゃんはすごく大人に見えていたから。



「最初は妹みたいに思っていたんだけど。
 いつだったか、チカちゃんの笑顔を見た時に“俺がこの笑顔を守ってあげたい”って」


 ここで、お兄ちゃんがふっと顔を伏せた。


「でも、それから少ししてノドの手術をしただろ。
 みんなの前では明るく振舞っていたけど、人目を避けて時々寂しそうにするチカちゃんを見てさ。
 医者になろうって決めたんだ」


 テーブルの上に置かれたお兄ちゃんの手がグッと握られる。

「今までのように明るく笑って欲しくて。
 俺の知っている元気なチカちゃんに戻って欲しくて。
 色々調べて、形成外科にたどり着いた」



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