声にできない“アイシテル”
“そんな大事なこと、どうしてもっと早くに教えてくれなかったの?”


『将来はコックになりたい』って、お兄ちゃんは言ってたのに。


 まさか、私のことがあって医者になっただなんて。

 自分の病気が,お兄ちゃんの人生を、将来の夢を変えてしまったなんて。


 考えたこともなかった。

 想像すらしなかった。

 

 私が尋ねると、お兄ちゃんは静かに答える。

「本当に医者になれるかどうかは、やってみないと分からなかったし。
 それに・・・」

“それに?”

「いざ医者になって留学先から日本に戻ってきた時には、チカちゃんに素敵な彼氏がいたから。
 言えるわけないよ」


 私から視線をすっと逸らし、寂しそうにお兄ちゃんが微笑んだ。

< 464 / 558 >

この作品をシェア

pagetop