声にできない“アイシテル”
「桜井さんの隣りに立つチカちゃんは、本当に幸せそうだったから。
 そこから奪い去ることは出来なかった。
 それでも、チカちゃんのことが忘れられなくってさ。
 この年まで独身だよ」

 ハハッと笑うお兄ちゃん。


 私には笑う余裕がなかった。

 驚きと、お兄ちゃんに対する申し訳ない気持ちとで、目の前がグラグラする。


 黙っている私にかまわず、お兄ちゃんは話を続ける。

「イギリスでチカちゃんと偶然再会して。
 やっぱり好きだなぁって思ったよ」


 今度は私の目をしっかり見て、優しく微笑んできた。

「自分の気持ちは一生伝えないつもりでいたんだけど。
 桜井さんと別れたのなら、言ってもいいんじゃないかなって」


 10年以上も抱え込んでいた気持ちをようやく口に出来たお兄ちゃん。

 その顔はすがすがしく見えた。



 正面から見つめられて、私は困ってしまう。

“あ、あの・・・。
 お兄ちゃんのことは大好きだし。
 その気持ちも嬉しいんだけど。
 その・・・”

 私は頭が混乱してしまって、うまく自分の感情がまとまらない。



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