声にできない“アイシテル”
 それからは他愛のない話をしながら、食事を続ける。


 食後のコーヒーを飲みながら、お兄ちゃんが言った。

「俺からも話があるんだ」

“何?”

「人工声帯の手術を受けてみない?」

“え?”


「これまでに50人近くの人がすでに受けているんだ。
 みんな話せるようになってる。
 リハビリは少し大変だけど、もともと話せていたチカちゃんならすぐに声が出るようになるよ」

 お兄ちゃんが優しく微笑みかけてくる。


“声・・・”

 私は自分のノドにそっと触れた。


 今では声のない生活が当たり前になっていて。

 話せる様になりたいって思うこともなくなった。


 一生このままでいいとさえ思っている。


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