声にできない“アイシテル”
 その晩、ある夢を見た。


 厳かな雰囲気漂う教会。

 建物の中にはたくさんの白いユリが飾られていて、中央の通路には真っ赤なじゅうたんが敷かれている。

 俺の他に参列者はなく、一番後ろの席に一人で座っていた。


―――これは誰の結婚式なんだ?


 不思議に思って前を見ると、祭壇の手前に白のタキシードを着た男性の姿が目に入った。


 彼は後ろにある大扉をじっと見つめている。

 その表情からは花嫁の登場を心待ちにしているのがよく伝わってきた。


―――あの人、誰だっけ?


 その男性に見覚えがあるけれど、どうも思い出せない。

 首をかしげていると、扉が開いた。


 現れたのは、純白のウェディングドレスに身を包んだチカだった。


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