声にできない“アイシテル”
―――え・・・、チカ?!


 名前を呼ぼうとするけれど、なぜか声が出ない。

 オマケにイスに貼り付けられたように体が硬く、身動きが取れない。


 どうにかチカの気を引こうとするが、彼女は俺に気付くことなく、静かにと横を通り過ぎる。


―――クソッ、何でだよ!!

 俺の目の前にチカがいるのに手が出せない歯がゆさで、泣きそうになる。


―――チカ!
   チカッ!!


 俺の心の叫びは届かず、チカは祭壇で待つ男性の横に立った。


―――チカの隣りに立つのは俺だぞ!
   チカと結婚するのは俺だぞ!

 どんなに心の中で喚いても、チカには届かない。


―――ちくしょう・・・、ちくしょう!!


 悔しさのあまり、ついに涙が一粒こぼれる。


 その時、チカがゆっくりと振り返った。


 自分でベールを少しだけ上げて、2回まばたきをし。

 そして、まっすぐに俺を見る。


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