声にできない“アイシテル”
 向かい合わせに座る俺と山下さん。


「まさか、ここで桜井さんに会うとは思いませんでしたよ」

 苦笑しながら、山下さんがコーヒーをすする。


「ホント、びっくりしました」

 俺も苦笑を返す。

「よく名前を覚えてましたね。
 ちょっと挨拶をした程度だったのに」

 意外そうに山下さんが言う。


「あ、まぁ…」

 かつて、嫉妬の対象だったから印象深いとは言えない。

 俺は笑ってごまかす。


「山下さんこそ。
 記憶力がいいんですね」

「え?
 ああ、そうですね。
 それが取得みたいなものですから」


 山下さんもなんだかごまかすような言葉を返す。


 お互いの間に微妙な空気が流れた。



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