声にできない“アイシテル”
 しばらくして、これまで和やかな表情だった山下さんがふと真顔になった。

「ここにあなたがいるということは、資金援助をしてくださっていたのは桜井さんなんですね?」


「そうです」

 俺は大きくうなずく。

「医療の発展の為に、少しでも力になればと思って。
 …なんて言えば聞こえはいいですが。
 実のところ、個人的な目的があったんですよ」


「どういうことですか?」

 コーヒーカップをソーサーに戻した山下さんは、興味深そうに俺を見る。


 俺もカップを置き、その手を膝の上でグッと握る。

「チカが話せるようになって欲しいんです」

 願いと思いを込めて答えた。



 それに一瞬ひるんだような表情を見せる山下さん。

「チカちゃんのため…ですか?」


 穏やかだった山下さんの顔が変わった。

 どことなく恐さを感じる。


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