声にできない“アイシテル”
―――どうしたんだろう?


 不思議に思いながらも、俺は話を続ける。

「実は事情があって、今はチカと離れ離れなんですけど…」

 彼女が離れていった後ろめたさがあって、俺は軽く視線を伏せた。

「俺はチカが自分の家族に認められる道を探していました。
 そして、ここの人工声帯技術を知りました。
 彼女が声を取り戻せば、何の問題もないんです。
 だから、“個人的な目的”なんですよ」

 
 逃げ出した彼女のために、どれほどのお金を投資したのか。

 どれほどの時間と労力をかけてきたのか。


 馬鹿げてると言われるかもしれない。

 
 だけど。

 どんなに苦労をしても、チカを取り戻したかった。

 


「なるほどね…」

 山下さんは複雑な顔でテーブルに置かれたコーヒーカップを見つめている。



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