声にできない“アイシテル”
 しばらくして、目を伏せていた山下さんが顔を上げて、俺を見た。

「離れ離れということですが、あなたの気持ちは変わっていないんですか?
 単に義務感や責任感から、チカちゃんに話せるようになって欲しいということではないんですか?」


 どうしてここまで突っ込んだ言い方をするのだろう。


 それにさっきからずっと山下さんの表情が硬い。

 話の合間に見せる微笑みがやけにぎこちない。


―――俺とチカのことに反対してるのか?

 彼は“お兄ちゃん”として、俺を試しているのだろうか?


 山下さんの真意は分からないけど、俺は思っていることを素直に伝える。

「気持ちに変わりはありません。
 むしろ、離れていた2年間でつくづく実感しました。
 自分にとって、チカはなくてはならない存在なんです」

 俺は聞いたばかりの話しを口にする。

「さきほど所長が言ってましたよ。
 山下さんはずっと好きだった女性を射止めたんだって。
 それなら、俺の気持ちを分かっていただけるんじゃないですか?」

 俺は笑顔で問いかける。


 それに対して、山下さんは無言だった。


< 493 / 558 >

この作品をシェア

pagetop