声にできない“アイシテル”
 ふぅ、と一息吐いて、俺が先に口を開く。

「あの…。
 チカと一緒に暮らしているんですよね?
 それって…」

 続きは怖くて言えなかった。


 ところが、返ってきた言葉は俺が考えていたものとは違った。

「住む所がない彼女に部屋を提供しているだけですよ。
 同棲とは言えないと思います」


「そうですか…」

 思わず安堵のため息。


 だけど。


「将来的にチカちゃんとの結婚を考えています」

 しっかりとした意思を持つ山下さんの言葉に、再び目の前がくらむ。


「そのことについて、チカはどう考えているんですか…?」

 搾り出すような弱々しい俺の声。


 チカは心変わりしてしまったんだろうか。


 “声が出ない”という理由だけで切り離したあの2人を両親に持つ俺よりも。

 ずっと見つめて、ずっと見守ってきた山下さんを選んだのだろうか。


 俺がこれまでにしてきた2年間は無駄だったのだろうか…。


< 499 / 558 >

この作品をシェア

pagetop