声にできない“アイシテル”
「よし。
 今夜はトオルさんの好きなアップルパイを作って、元気付けてあげようっと」

 そう言って病室をザッと見回して忘れ物がないかを確認していると、扉をノックする音が聞こえた。


「片付けはもう終わった?」

 顔をのぞかせたのはトオルさん。

「今、終わったところ。
 わざわざ迎えに来なくても大丈夫だったのに。
 バスでも、タクシーでも帰れるんだから」

「何言ってんの。
 結構な荷物をチカちゃん一人に持たせるわけにはいかないよ」

 にっこりと笑うトオルさん。

 病院のスタッフさん達が『過保護だねぇ』と口にするほどのいつもの彼だった。


―――悩み事が落ち着いたのかな?


 だけど、どことなく緊張しているようにも見える。


 その彼が、私をまっすぐに見つめて口を開く。

「それに…、この前の話、忘れたわけじゃないよね?」


 優しく問いかけてくるけど、その目は真剣で怖いくらいだった。



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