声にできない“アイシテル”
 私が『はい』と答えれば、もう後戻りは出来ない。

―――これで、アキ君との事が終わるんだ。


 トオルさんの奥さんになった私とアキ君が、共に歩む人生はない。

 アキ君との未来は用意されていない。



 どこかでばったり会うかもしれないけど。

 それはただの顔見知りとして。

 昔付き合ったことがあるただの元恋人同士として。


 それ以上のことはない。

 

 それに私の声が戻ったからといって、今更アキ君のところへ行っても、きっと手遅れだ。

 彼はもう、私のことなんて気にもかけずに生きているだろう。


 私は決めたんだ。

 これからはトオルさんと一緒に歩いていく。

 アキ君との未来は必要ない。



 大きく息を吸い込んで、トオルさんを見上げた。

 そして微笑む。

「はい。
 よろこんで」


―――これで、アキ君とは完全に終わったんだ…。


 私は脳裏に浮かんだアキ君の笑顔に、小さく“サヨナラ”と心の中でつぶやいた。 


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