声にできない“アイシテル”
 それなのに。


「悪いけど、指輪はナシね」

 軽く返されてしまう。


「え?
 …ええっ?!」

―――ナシって何??

 頭は完全にパニックを起こしている。

 彼が何をしたいのか、分からない。


「あ、でも退院祝いは別に用意してあるから。
 それは絶対に受け取って。
 返品は不可だから」


「う、うん」

 ずいっと指を突きつけられ、訳も分からない私はうなずくしかなかった。


「あの…。
 それで、何を用意してくれたの?」


 おずおずと尋ねると、トオルさんは少しだけ意地悪く笑う。

「それは見てからのお楽しみ。
 今、持ってくるよ」

 私の頭をポンポンと軽く叩いて、トオルさんは背を向けて部屋を出る。



 扉を出る直前に、クルリと振り返る。

「チカちゃん。
 今度こそ、幸せになるんだよ」

 そう言い残して、トオルさんは姿を消した。
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