声にできない“アイシテル”
「チカ」

 名前を呼ばれて、私はおずおずと彼を見上げる。


 久しぶりに会ったアキ君。

 イギリスでの怪我はすっかり治ったみたい。

 擦り傷だらけだった顔には、傷一つ残ってなくて綺麗だった。


 だけど、その表情が疲れて見える。

 ほんの少しの間に、また痩せたようだ。


―――それでも、やっぱりかっこいいなぁ。

 逃げることも忘れて、私は久々に会った彼に一瞬見惚れてしまった。


 
 彼を見ているだけで、今でも涙が出るくらい胸が熱くなる。


 トオルさんと一緒に生きていくと決めた日から、アキ君への想いは心の奥の、そのまた底に閉じ込めたはずだったのに。


 そんな封印はいとも簡単に吹き飛んでしまった。



 ジワジワと彼への想いが湧き上がってくる。

 押さえようとしても、ダメだった。


 だけど、私にはアキ君に手を伸ばす権利はない。

 彼を見捨てた私には…。


 だから、唇をかんで、じっと耐える。
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