声にできない“アイシテル”
 なのにアキ君は言う。

「チカ、会いたかった」


 抱き寄せた私の髪に、アキ君はほっぺを摺り寄せる。

「チカを抱きしめたかった…」

 吐息とともに伝えられる切ない告白。


―――ウソ…。

 私の唇が小さく動く。


 それを見たアキ君が苦笑した。

 彼は私の前髪を右手でそっと払って、おでこにキスをする。

「ウソじゃないよ。
 俺はチカを迎えに来たんだ」


―――本当に?!


 まっすぐに私を見つめる彼の瞳。

 そこには別れる前と同じ光があった。


―――まだ、私を好きでいてくれたの…?

 
 とっくに嫌われたと思っていたのに。

 こんなひどい私のことなんて、忘れちゃったと思っていたのに。


 止まっていた涙が、また溢れそうになる。


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