声にできない“アイシテル”
「それから…」
 

 俺は腕の中からチカから解放し、上着のポケットをに手を入れる。

「これはチカが持っていないとだめだろ?」


 彼女の左手を取って、あの指輪をはめる。

 チカはその様子を声も出さずに見ている。


「うん、やっぱりここにあるのが一番しっくりくるな。
 俺が持っていても意味ないよ」


 チカは複雑な顔で、その指輪を見つめていた。

「どうした?」


「…アキ君、怒ってる?」

 目を伏せたままの状態で、ぽつりとチカが呟く。


「え?
 怒るって、何を?」


「…突然、姿を消したから。
 それにイギリスでは、アキ君を知らないフリをしていたし。
 指輪を私に返すって事は、全部思い出したんでしょ?」


 チカは小さく肩を震わせながら、恐る恐る話している。




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