声にできない“アイシテル”
 俺は頭をガリガリとかいて、当時の自分を思い出し、正直に話すことに。

「んー、怒るというか…。
 初めはショックだったかな。
 “両親のように俺を捨てるのか”って」


 それを聞いたチカはますますうつむいてゆく。

「それなら、私はアキ君にふさわしくないよ…」


「こら、最後までちゃんと聞いて」
 
 俺の前からまた勝手に姿を消そうと考えているチカの肩を抱き寄せた。

「でもね、チカを嫌いになんてならなかった。
 冷静になると、何か理由があるんだろうって思ったよ。
 だって、チカはそんな酷い事をする人間じゃないから」

 チカを落ち着かせるように、子供をあやす母親と同じく彼女の背中をゆっくりとしたリズムで叩く。

 彼女は大人しく俺の話を聞いている。


「俺と別れたのも、俺を知らないフリをしたのも、桜井グループを守るためだったんだろ?」


 じっとうつむいたままのチカ。

 しばらくして、小さくうなずいた。

「アキ君、色々とごめんなさい」


「謝るのはこっちだよ。
 チカにさんざんつらい思いをさせた。
 ごめん」

 彼女の背中にあった腕を回し、しっかりと抱きしめる。

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