声にできない“アイシテル”
「け、け、結婚?!
 そんなの、急すぎるよ」

「急じゃないだろ。
 前に約束したじゃないか」


『この指を、ダイヤの付いたリングで飾るから』

 クリスマスの日。

 俺の家に訪れたチカに、そう言った。



 俺は鈍く光るシルバーリングを包む様に、彼女の手を握る。

「時間はかかったけど、チカを支えられるくらい大人になれたんだ。
 もうチカと離れていたくない。
 …それとも、俺と結婚するのはイヤ?」


「そうじゃない。
 けど…」

 困ったように眉を寄せ、言葉を濁すチカ。


「けど?」

「アキ君と結婚したら、私はいつか社長夫人になるんでしょ?
 そんな大役、果たせそうにないよ。
 だって、私は普通の家庭の子だし」


 俺の家に来た時、その大きさと豪華な調度品に驚いていたチカ。

 自分の住む世界とあまりに違いすぎる様子に、彼女は戸惑っていた。


 付き合っていただけの頃はまだよかったんだろう。


 だが、結婚となると自分の周りが、日常が、そういう世界になる。

 その事に戸惑う気持ちは、分からなくもない。

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