声にできない“アイシテル”
 かといって、みすみすチカを手放す気持ちは欠片もないのだ。


「平気だよ。
 チカは前向きに頑張れる人だから」

「そんな簡単に言えることじゃないよ。
 ホテルグループ全体のことなんだよ?」

 大グループの社長婦人になれることで、浮かれる女性は多いだろうが。

 チカは違う。

 理解できないながらも、会社経営が難しいものだと察している。

 だから、簡単に喜べないでいるのだ。


 でも、俺からすれば、こうやって会社の事を考えられることができるというのは、社長婦人としての素質があることだと思う。


「大丈夫。
 俺が必ずそばにいるから」

 握る手にそっと力を込める。


「絶対に守るから」

 チカの瞳をまっすぐに見つめた。








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