声にできない“アイシテル”
「ア、ア、ア、アキ君!?」

 この状況と彼のセリフに、私の顔が真っ赤になる。


「あははっ。
 桜井さん、そんなに怖い顔をしないでください。
 失恋男のたわごとですから」

 口元に手を当てて笑うトオルさんの目は,ちょっと寂しそうだ。


 これまで私のために一生懸命だったトオルさんに対して、こんな結果になってしまったことは本当に申し訳ないと思う。


 だけど、私の心はやっぱりアキ君で一杯なのだ。


 アキ君の腕からそっと抜け出し、まっすぐにトオルさんを見た。

「トオルさん。
 あの、ごめ…」

「謝らないで」
 
 私の言葉をトオルさんが遮る。


「謝られるとみじめになるからさ」


 トオルさんにポンポンと頭を撫でられ、私は小さく頷く。



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