声にできない“アイシテル”
 そうこうしているうちに、第3走者がやってくる。


「やれやれ」

 俺はかったるそうに(実際、かなりかったるいけど)レーンに出た。


 3-1は今のところやや遅れて6位。


 この段階で6位なら、クラスのみんなも諦めているだろう。

 わざと遅く走っても、俺の良心は痛まない。
 

 
「桜井、頼むっ!」

 ギリギリで順位を1つ上げた増田が、倒れながら俺にバトンを渡す。


 トップとの差は約10メートル。

 アンカーは200メートルのグランドを1周する事になっていて。
 
 俺の足なら逆転するのも可能だろう。


 でも、目立つ事なんてごめんだね。


 俺はそこそこのスピードでゴールを目指した。




 その時、俺の視界にひときわ大きなポンポンがゆれているのが目に入ってきた。


 彼女は小さな体を全部使って、一生懸命に応援している。



 もちろん声が聞こえないけど、口の形で“桜井先輩、頑張れ!”と言っているのが分かった。

 
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