声にできない“アイシテル”
 瞬間、俺の意識から余計なものが消えた。


 かったるいとか。

 目立ちたくないとか。


 そういった事がすべて吹っ飛んだ。



 先を走るトップの背中に目を向ける。

 差は開いていて、今では15メートルも離されていた。


「くそっ」

 俺は一言吐き捨ててスピードを上げる。


 自分でもどうしてこんな事をしているのかが分からなかった。



 だけど。

 必死で俺のことを応援してくれているあの子に、いい加減な自分の姿を見せたくない。


 そう思った。





 無我夢中で走る。


 ワァッッと大きな歓声が上がった時には俺は2位になっていて。

 その差は5メートルにまで縮まっていた。


 でも、前を走る奴もアンカーだけあってなかなか追いつけない。



 残る距離は100メートルを切った。

< 56 / 558 >

この作品をシェア

pagetop