声にできない“アイシテル”
「あ~、かったりぃ」

 もう一つ大きなあくびをして周りを見回すと、テニスコートでチョコチョコ動いているあの子が目に入った。

 小柄だからか、思っていたよりもすばしっこい。


 他の女子よりも背の低いあの子が走り回る様子はリスやハムスターのようで微笑ましい。


 ふっ、と口元が緩む。




「何、見てんだ?」

 小山が俺と同じほうに顔を向ける。


「ああ、チカちゃんか。
 ・・・お前、何でチカちゃん見て笑ったんだ?」

「え?
 俺、笑ってたか?」

 自分ではそんなつもりがなかったから、言われてびっくりする。


「ニコニコって感じじゃなったけどな。
 なんていうか、目が優しいって言うか」


「あー。
 あの子、小さくてクルクル動きまわっているだろ?
 なんか小動物みたいで可愛いなぁって」


 俺のセリフを聞いて、今度は小山がびっくりする。

「桜井が女子のことを可愛いって言うの、初めて聞いた・・・」



 目を大きく開いて、口はだらしなく半開きになっている。



< 63 / 558 >

この作品をシェア

pagetop