声にできない“アイシテル”

物言わぬ少女

 放課後の廊下は帰る生徒や、部活に向かう生徒でいっぱい。


 俺が廊下を数歩進んだだけで、そこかしこから女子のささやきが始まった。



「はぁ・・・」

 再び大きなため息が出る。


「どうした?
 辛気臭い顔しちゃって」

 背後から声をかけてきたのはこの学校での友人第一号、小山だった。


「ん?
 相変わらず雑音だらけだなぁと思って」

 一応は気を遣って、小山にしか聞こえないように小さく言う。


「ひっどいなぁ。
 俺だったら“カッコいい”って言われたら、大喜びだけど」


 優しいと評判のこいつは、俺が冷たい言葉を言うたびに女子の味方をする。



 
 だけど、歩いているだけでじろじろ見られるのは結構苦痛なのだ。



「興味本位で言われ続ける俺の身になってみろ。
 ただの迷惑だ」


「ははっ。
 桜井って、ほんとにひどい奴」


「うるさい」



 首だけ小山に向けて話していたから、廊下の角から出てきた人に気がつかなかった。

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