声にできない“アイシテル”
「恋愛小説ばかり読んでるかと思った」

 本屋に行くと、文庫のコーナーにはピンク色を主体にした表紙で、なんだかメルヘンチックなタイトルの本がぎっしり並んでいる。

 クラスの女子の大半が、休み時間にその手の本を読んでキャーキャー言ってる。


 実際に読んだ事はないけど。

 きっと先輩に恋をする話とか、気が付いたら幼馴染に恋をしていた話とか。
 
 そんなの恋愛話がつまってるんだろう。


 大野さんだって年頃の女の子だし、本が好きなら、そういう類の作品を読んでいてもおかしくないよな。
 


 何の気なしに言った俺の言葉に、彼女はキュッと口をつぐむ。


“恋愛小説は読みません”


 その文字が心なしか硬く、震えているように見えた。




「どうして?
 女の子って恋愛モノが好きだよね?」


 最後の本を棚に押し込み、振り返る。

 そこには泣きたいのを我慢しているような、そんな笑みを浮かべている彼女がいた。


“そういうお話を読むと、恋愛は自分の手が届かないところにある物だって思い知らされるんです。
 話も出来ない私を好きになってくれる人なんていませんから”



 そう書かれたメモを俺に押し付けて、彼女は隣りの司書室に消えた。

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