声にできない“アイシテル”
 お母さんの運転する車で、もう10年も通っている内科に向かった。


 そこの院長先生はいつもニコニコしていて、優しくて。

 お医者さんって言うよりも、自分のおじいちゃんみたいな人だ。



「おや、チカちゃん。
 今日はどうしたのかな?」

 一人で診察室に入ると、椅子に座っていた先生が優しく話しかけてくる。


「ノドの奥がね、なんか変な感じなの」


「どれどれ。
 口を大きく開けてごらん」


 先生はいつものようにライトを当てながら、私の口の中を見る。

 これまでニコニコしていた先生の顔が、さっと青くなった。


―――どうしたのかな?


 先生は近くにいた看護婦さんに何か言ってる。



 しばらくして、看護婦さんに連れられてお母さんが入ってきた。




< 81 / 558 >

この作品をシェア

pagetop