声にできない“アイシテル”
 先生は引き出しから紙を出し、いくつか書き込んだ後封筒に入れて、お母さんに差し出す。

「これは大学病院の紹介状です」


 こんなに固い顔をした先生は初めて。
 


「えっ?
 娘は風邪じゃないんですか?」

 お母さんがびっくりして聞き返す。


「詳しい事は検査で分かるでしょう。
 命に関わる事ですので、できればすぐにでも行ってください。
 先方には電話をしておきますので」

 そう言って、先生は机の上の電話に手を伸ばし、どこかにかけ始めた。


―――大学病院?
   検査?
   命に関わるって、何?


 パニックになって動けなくなった私の手を引いて、お母さんは車へと急いだ。

 


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