声にできない“アイシテル”
 声は出なくなるけど、病気は治るんだもん。


 話せなくなる事で出来ないこともあるけど、出来る事だってあるはず。

 ゼロじゃない。



「絵本作家とか小説家なら、声は必要ないよね。
 話せなくても、仕事はできるよね」


 ちょっと前まであんなに泣いていたのに。

 今の私は少しだけ笑顔を取り戻した。


「気持ちを切り替えるきっかけって、こんな近くにあったんだ」



 ぜんぜん悲しくないって言ったらウソになる。



 でも。

 悲しいだけじゃなくなった。


 ほんのちょっとだけど、未来に期待している自分がいる。





 給湯室を出る前にもう一度月を見て、“頑張ろう”って呟いた。



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