イケメン貴公子のとろけるキス
ただそこには、客目線で旅行をして、今後の仕事に役立ててほしいという会社側の意向もふんだんに盛り込まれている。
「うーん。そうだなぁ……」
腕組みで気難しい表情を浮かべている。
私の軽い提案に、滝本くんは本気で悩み始めてしまった。
『行かねえよ』という返しを予想していただけに、ちょっとした肩すかしだ。
今ここで真剣に考え込まなくてもいいのに。
「でもピピが困るしなぁ……」
ペットのピピの心配までし始める。
そして、悩める顔のまま自分のデスクへと戻っていった。
「ミナは、連続有給休暇の申請は出さないの?」
隣の席から私に声を掛けてきたのは、舘石小夜(たていし さよ)さんだった。
同じ部署に所属する先輩だ。
五歳年上の三十二歳。
肩までのワンレンストレートの髪を後頭部でひとつにきっちりとまとめ、パンツスーツを颯爽と着こなす。
ナチュラルなメイクをしていても、目鼻立ちのはっきりとした顔立ちは隠せない。
凛々しい美女だ。
私の密かな憧れでもある。
とはいっても、私が彼女に近づける要素はほぼない。