イケメン貴公子のとろけるキス

「ミナ、着けてくれる?」

「うん」


ルカの視線が注がれる中、指先が緊張で震える。
近距離だから、余計に気になって仕方がない。


「イタリアではね、誕生日へと日付が塗り替わるときに一緒に過ごす相手とは、キスを交わすんだ」

「……キ、ス?」


ルカの言葉に、鼓動が激しく反応する。
肩に置かれた手にほんの少し力が入って、熱い視線が私を射抜いた。

それは、単なる習慣。
イタリアの男女が、挨拶代わりにごく普通にする口づけ。
呪文のようにそう言い聞かせて、何度も自分を納得させる。

加速する鼓動だけは、どうかルカに伝わらないで。

そっと瞼を閉じると、静かに唇が重なった――。


それからのことは、ほとんど覚えていない。
夢見心地のままルカに肩を抱かれて行ったオペラも、私の耳には一向に入ってこなかった。
観ているのに、視界に入っているはずのステージはただそこにあるだけの無用の長物。

ただ、隣に座るルカの存在しか感じたくなかった。
それ以外のいっさいをシャットアウトしたかった。

終始つながれた私の左手は、ルカを感じるためだけにあるみたいだった。

優しく手の平をくすぐる指先。
手の甲には、時折ルカの唇が触れる。
もう、どうにかなってしまいそうだった。

どうにかなってしまえばいいとさえ、思った。

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